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JOURNAL / FROM HIKE / WORK WITH RATTAN CHAIR CRAFTSMAN



都内にある私たちのアトリエ。いつもならサンディングによる摩擦音と木屑がまう作業場には静けさが漂い、座面が外された椅子に向かって真剣な面持ちの3人がいた。そう、今日は長年私たちの仕事をサポートしてくれる籐張り職人を招いての講習会を行う日。メンテナンス技術を深めるには専門の知識を有する方に正しい教育を受ける必要があると感じ、こうした機会を設けていただいた。

習うのはペーパーコード編み。小さな段ボール箱と、僅かな道具をもって職人はさっそく位置についた。想像はしていたが「道具はこれだけ?」とやはり思ってしまう。それは同時に、太くたくましい指、腕、そして身体に沁みついた膨大な経験による技が何よりも重要であることを物語っている。始めに彼は全体の流れや基本的な結び方などを説明してくれた。私たちはノートとペンを持って話を聞いていたが、いつしか床に置いたままになり、職人の手元を見ては自らの手元でそれを試す、その繰り返しに夢中になっていった。

いよいよペーパーコードを椅子に編む工程へと移る。コードには太さの種類があり、その椅子に元々使われていた太さのものを選んで使う。こんなちょっとした事でも、なぜこの太さなのか?とデザイナーの思考の一端に触れる様でワクワクしてくる。まず、当時の職人が残した小さな釘に新たなコードを引掛けるところからスタートした。端から前後の座枠にギュッ、ギュッと力強く引っ張りテンションを維持しながら巻いていく。職人は慣れた手つきでコードを軽快に操り、あっという間に1/3程編み終えたところで「お前やるか?」とお声がかかった。やることは単純だ、丁寧にやればすぐに出来る。そう思ってコードの途中を引き継ぎ、力いっぱい引っ張り巻進めていくのだが、これが見た目以上に難しい。全体の2/3を終えた頃には指の皮がめくれていた。サンディング作業で鍛え込んだ自慢の指だったが、情けないものだ。

縦方向を張り終える頃、職人に再度椅子を託すとエアコンプレッサーの空気圧を上げて椅子の裏からタッカー(家具用のホチキス)を打ち込んでいった。これで緩みを防ぐそうだ。縦方向の工程が終わると次は横方向に移っていく。縦コードは力いっぱい張るのに対して、横は幾分ふんわりと巻くのが綺麗に巻く秘訣。それは素材の柔軟さを活かして少し遊びを設けることで、色んな体型や座り方にも対応できる意味もあるのだろう。一本一本確かめるように縦コードの上下に横からコード通していくと、次第に見覚えのある美しい座面が表れてきた。自分の手で表現したのが少し不思議で、気持ちが高揚していく。指はジンジン痛いが高揚感がそれを感じさせない。そんな没頭する私たちを静かに見守ってくれる職人。それは何とも贅沢な時間であった。

手を止めてこっちを見るよう、声を掛けられた先にはJ39とYチェアが。北欧を代表する2脚の椅子は先ほどとは違い、中央に向かって窪みをつけるような特殊な編み方がされていた。作業をした今だからこそ、明らかに先ほどより難しいテクニックによって編まれてると分かる。職人は実演を交えて説明し終えると最後にこう付け加えた。これを綺麗に編み上げるには最低50脚はこなす必要があるね、と。

そして北欧の椅子を何脚も手掛けてきた彼曰く、一見同じ編み方の椅子でもメーカーや年代によって個性があるそうだ。職人だからこそ気付けるエピソードに私はヴィンテージ家具の深みを感じた。彼だから感じることの出来た世界を私も今は少し見える。これから教わったことを反復練習し自らの世界をもっと広げたいと、彼の背中を見てそう思った。


写真、コメント:中島


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FROM HIKE

JOURNAL ON 25TH JAN 2018

WORK WITH RATTAN CHAIR CRAFTSMAN