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東京都内の一角に昔ながらの木造家屋がある。周辺はビルが乱立し開発も激しい。その一室に長年僕らをサポートしてくれている木工挽物職人さんの作業場がある。”木工挽物” あまり聞きなれない言葉にピンとこない方も多いかもしれない。木工挽物とは木材をろくろや旋盤で回転させながら、刃物を当てて丸く形成する手法。その歴史は古く平安時代から続く伝統的な技術だ。テーブルの脚はもちろん、器や茶筒など、丸い形であればどんなものでも製作可能と話すのは、御年74歳、職人歴50年の大ベテラン。

作業台の上に山積みされた角材は釣竿の柄になるという。角材の中央に釣竿を差し込む穴をあけ旋盤にセット。小気味良いモーター音と共に勢いよく回りだした角材に、慣れた手つきでノミをあてがえば、スルスルと木材が削られ、ものの数秒で丸みを帯びてゆく様は爽快の一言。使うノミを変えながら、体全体を使い、ときに手首の角度を微調整しながら一気に成形してゆく。木屑が周辺に舞い落ち、木の香りが作業場をほんわり包む。

窪みが付けられた仕上がったばかりの柄に触れれば、吸い付くような収まりに驚く。手に馴染むそれは積み重ねた熟練した技術にもよるが、使う道具がことさら大切だと話す。聞けば、ノミなど削る道具は自ら鍛治をして製作したものだそう。仕事を受けるたびに、その完成形を想像し、その仕事に似合った道具を作るのだという。周辺に整然と並べられた数々のノミは、ひとつひとつの仕事に歴史でもあり、まさに彼の人生そのものの自分史と言っても過言ではないだろう。

作業がひと段落したところで仕事について少しお話を伺った。今までに印象深かった仕事は?と問えば「いろいろあるけれど、皇室の家具製作に携われたのが一番印象深いね。箪笥の取っ手やベッドの飾り玉を製作した。」と今でも大切に保管された製品の一部を見せてくれた。挽物職人の現状についても伺うと「昔は仕事も多く、挽物師もたくさんいだが、ここ最近は数えるほどになってしまったね。少しでも、伝統の技を子どもたちにも身近に感じてほしいと思い、区のイベント時には目の前で実際に旋盤を回しコマを作り、子どもたちに色付けをさせたりといった活動をしたりしている。」

同じ挽物職人さんの数が減っていく中、まだまだ現役で活躍され、自身の確かな技術を惜しむ事なく後世に伝えたいという姿勢に感服。 随所で作業中の手を止め、道具の使い方や製作手順を丁寧に教えてくれる姿があった。 勝手ながら、あまり多くを語らず職人気質な佇まいの職人さんというイメージを抱いていた僕には少し意外で、職人さんの本質に触れられた気がして暖かい気持ちになった。



コメント&写真:谷山

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JOURNAL on 17th Mar 2017

Wood Turning Craftsman × HIKE 
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