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JOURNAL / OUR NEIGHBORHOOD / POST



今回のOUR NEIGHBORHOODは恵比寿駅より徒歩5分、海外の出版社による写真集やアート作品集をメインに取り扱うブックストア「POST」。スタッフの錦多希子さんにお話を伺いました。

谷山:
お店の始まりについて
錦:
元々は早稲田にあるギャラリーで「limArt(リムアート)」という古書と古家具を取扱うテンポラリーショップから始まり、2005年に常設店として現在の恵比寿に移転しました。2010年には代々木VILLAGE内に姉妹店としてコンテナショップ「POST」をオープン。limArtでは古書をメインに取扱い、POSTでは新刊をメインとし、定期的に出版社ごと商品を入れ替えるというそれぞれのスタイルのお店を展開してきました。2013年には、古書と新刊の双方を取り扱う店舗として屋号をPOSTに統一し現在に至ります。
谷山:
店名の由来について教えて下さい。
錦:
なるべく普遍的で覚えやすく、気を衒わずストレートな名前にしたい、代表の中島とアートディレクターの田中義久さんの2人でアイデアを出し決定しました。ポストは、郵便物が定期的に届くもので、出版社特集の定期的に本が入れ替わるイメージからこの言葉を連想しました。また、新しい書店の形を提案したいと考えていたので、「ポストモダン」といった言葉に用いられる際の意味も含んでいます。もうひとつ、1つの出版社にフォーカスするということから「SPOT/スポット」という言葉もキーワードにありました。「POST」は「SPOT」のアナグラムにもなっています。
谷山:
なぜこの場所で。
錦:
中島が、当時斜向いにあった古道具屋「タミゼ」の吉田さんを訪ねる為によくこの辺りを訪れておりその際、偶然見つけたのがこの建物でした。 当時は、賃貸募集をしている状況ではなかったのですが、直接オーナーさんに交渉し貸してもらったそうです。
谷山:
出版社にフォーカスする販売スタイルはどの様にして生まれたのですか。
錦:
コンテナショップ(代々木VILLAGE内)という小スペースの中で、お客様が飽きずに楽しんでいただける方法は何かと考えた時に、本を全て入れ替えるという発想に至りました。次に、毎回出版社を決めて、出版社単位で本を紹介するのがいいのではないかと考えたのです。普段本を購入する際、出版社を意識する方はあまりいないかと思いますが出版社にはそれぞれ特色があり、本を選ぶ軸に出版社という選択肢もある事に気付きこのスタイルが生まれました。 実際に初めてみると、お客様はもちろん紹介するこちら側も新しい作品に出会う機会が増えました。
谷山:
出版社はどの様にして選んでいますか。
錦:
多義的ですが出版社の規模は問わず、カラーがはっきり出ていて独自性の高い活動や本の完成度を重視しています。 例えば、今取扱っている「Roma Publications(ローマ・パブリケーションズ)」というオランダのアムステルダムを拠点に、グラフィックデザイナーと現代美術作家が立ち上げた出版社は、現代美術にフォーカスした出版物を軸に、自身のデザインワークや関係性深いアーティストと共に展覧会を開くなどクリエイティブでユニークな活動をしており独自性の高い本を出版しています。 一方で、2013年に映画「世界一美しい本を作る男」の主題にもなったゲルハルト・シュタイデルが作ったドイツの「Steidl(シュタイデル)」という出版社は、シャネルのルックブックやロバート・フランク、ウィリアム・エグルストン、カールラガー・フェルトなど世界的な写真家の写真集を出版しています。彼らは企画、印刷、デザイン、製本、出版までを自社で一貫して手掛けることで完成度の高い造本を実現し、世界中に多くのファンを持ちます。
谷山:
商品ディスプレイについて大切にされている事を教えて下さい。
錦:
基本的な事ですが、お客様が商品を探し易いよう本棚に並べる際はカテゴリー分けして、アーティストのネーム順、本の高さを合わせる様にしています。また、新しく入ったものや、注目の書籍は真ん中に集めて関連性を持たせつつ全体のバランスを整えながらディスプレイし、新刊の場合は全てにサンプルを用意して気軽に中身をご覧いただけるようにしています。
谷山:
どういうお客様がいらっしゃいますか。
錦:
やはり、写真家やグラフィックデザイナーなどクリエイティブなお仕事をされている方が多いですが、最近は美術書の面白みや出版に対しての環境がとても開かれていることもあり、20代の若い世代の方達の関心も高まっている印象を受けます。また、韓国、台湾、オーストラリアなどアジア圏のお客様も多くいらっしゃいます。
谷山:
オススメの1冊を教えて下さい。
錦:
沢山ありますが最近は、アレクサンダー・カルダーの展覧会のカタログです。ソフトカバーなのですが、真ん中まで来ると分冊になっている装丁も面白く、当時の資料写真やオブジェ、作家を体系的に見る事ができる。尚且つ、ブックデザインがとても素敵で手元に置いておきたいと思う1冊です。
谷山:
一番満たされる瞬間は。
錦:
毎朝、出勤前に近所の公園を散歩をするのを日課にしており、その日の天気や光によって変わる空気、日々少しづつ変化する季節を感じる瞬間が満たされます。最近は、インスタグラムのストーリーを使い、雲の動く様子や木漏れ日、日々の気付きを記録しています。
谷山:
ご自宅ではどういった家具をお使いですか。
錦:
基本的には古い家具が好きで、机や本棚は大正、昭和頃の日本のものだったり、椅子は旅行先で出会ったチェコのピアノ椅子を使っています。物を増やすのがあまり得意ではないので、できるだけシンプルな空間になる様心掛けています。

自然光の差し込む心地良い店内に、沢山並ぶ美しいアートブックや写真集は手に取りたくなるものばかりでついつい長居をしてしまう。SNSの写真もいいが丁寧に製本された写真集のページをめくるたびに、指先に伝わる紙の質感や印刷された写真から膨らむ想像と脳への記憶はアートブックならではの感覚。ブックショップ、そこは毎回新しい発見があり自身の世界観を広げてくれる場所だが、その中でも、POSTは出版社にフォーカスした独自のスタイルで本選びの幅をグッと広げてくれ、選ぶ楽しさはもちろん一般的なブックショップでは得られない刺激や満足感を与えてくれる。また、店内奥にはギャラリースペースもあり、定期的に国内外の作家の展覧会やトークショーなども開催され、作品の展示とともにその背景を知る事も出来る。何か新しい刺激や発見が欲しい時に是非訪れたい。



POST
WEBSITE
〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南2-10-3
Tel 03-3713-8670
営業時間 : 12:00〜20:00 定休日:月


記事:谷山
写真:中島

OUR NEIGHBORHOOD

JOURNAL ON 10TH OCT 2019

INTERVIEW WITH POST STORE MANAGER
TAKIKO NISHIKI

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