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JOURNAL / FROM HIKE / なぜ北欧家具はヴィンテージになれたのか 第三章



2回に分けてご紹介して参りました北欧家具の歴史は最終章を迎えます。順風満帆なミッドセンチュリー期の北欧家具が辿る現代への道筋、それは1970年代以降の衰退期から話が始まります。内的要因と外的要因、複数の事象が五月雨に訪れたことで危機にさらされます。それらを踏まえて現代における北欧家具はどう進歩したのか。また、ヴィンテージとして再評価されていく過程を事実から考察します。


衰退期

1950〜60年代は黄金期と称され北欧家具の人気は国内外で高まり、特に大国アメリカからオーダーが殺到します。一見、素晴らしいことに思える状況ですが、当時の家具製作といえば木工職人がじっくりと1つの家具を作り上げていくスタイルが主流であり、量産体制が構築された家具メーカーは一部。よって、製作の対応に追われて余裕を失った職人らが新作を提案をできなかったことが衰退の第一歩となりました。1970年代にはオイルショックによる世界経済の混乱も重なります。当時のデンマークは輸入化石燃料に98%頼っており、原油高騰の影響は島国である私たちと同様に大きな問題であったことでしょう。さらにはスターデザイナーの高齢化が進みます。世界的に存在感を示していたアルネ・ヤコブセン、フィン・ユール、ボーエ・モーエンセンらは1970〜80年にかけて他界しており北欧家具デザイン界は大きな原動力を失うこととなります。そして、シンプルかつ合理的なモダニズムに対するアンチテーゼとしてユニークな表現による脱近代主義ポストモダンのムーブメントや、日本でも今やお馴染みイケアがコストパフォーマンスを追求したカジュアルな家具によって躍進したことで、従来のクラフトマンシップは勢いを失ってしまいます。


北欧家具の復活

1990年代中頃から北欧家具は再び評価を得るようになってきます。日本を例に挙げてみると、バブル崩壊が起こった後、豪華絢爛な趣向は影を潜めて、長く使い続けられることや、本質的な安らぎを求めて「北欧デザイン」というキーワードが雑誌などで頻繁に用いられるようになります。黄金期に活躍した工房は買収や廃業によって大きく数を減らしますが、PPモブラー、フレデリシア、カール・ハンセンなどの老舗ファクトリーは当時のデザインを大切に作り続けながら今に至ります。クラフトマンシップに優れた高価な家具と、イケアによる低価格かつデザインと品質に優れた家具によって幅広い層の支持を得られたことが大きいでしょう。日本以外においても同様の現象が起こっていました。

また、黄金期の作品がヒットしたことによる慢心が招いた当時(1970年代)の失敗を糧に、各メーカーはオートメーション化された量産体制を構築し、工場を国外に移すことによるコストマネージメントにも取り組み見事に復活を遂げます。業界全体として持続可能なビジネスモデルを構築してきたことは「北欧家具」というカテゴリーを確立し、恒久的な黄金期を得たように思えます。こうした産業化を背景に、家具を大切に受け継ぐ北欧ならではの文化がヴィンテージを生み出します。セピア色の画像でしか見ることが叶わなかった往年の名作、今では希少木材とされるチークやローズウッドを贅沢に使用されていること、経年変化によって緑青した真鍮の金物、手作業で削られたディテールなど現代家具では得られない魅力を有しています。そして、既に半世紀使われた家具でもメンテンナンスによって今後も末永く使い続けられるサスティナビリティを体現できることも価値のひとつと考えています。


あとがき

時代の変化や社会情勢を交えて俯瞰して捉えきてた「なぜ北欧家具はヴィンテージになれたのか」。北欧家具は一般的に著名なデザイナーにフォーカスが当たることが多いですが、実際には個の力に頼りきることなく逆境を乗り越えた地盤を持ちます。こうした背景のあるヴィンテージは単なる生活の道具に留まらないエピソードが秘められていることがお伝えできていれば幸いです。それが付加価値となり、所有する喜びとなることで後世へと引き継いでいく一因となることを私たちは願っています。

最後に、エネルギー問題について触れておこうと思います。外的要因によるウィークポイントを改善しなければ、いずれ同じ苦汁をなめることになりかねません。同じくオイルショックを経験した日本は石油に変わるエネルギーとして原子力を推進してきましたが、デンマークは10年かけた議論の末、そういった集中型発電システムではなく、再生可能エネルギーによる分散独立型の導入を進めています。当時僅か2%であったエネルギー自給率は現在60%を超えるというのだから驚きでの進歩です。風力や太陽光による自然エネルギーを活用する他、余剰電力があるときには電力から水素をつくったりする仕組みの構築を進めており、今後は自動車、船、飛行機などの分野においてもグリーン燃料に転換して脱炭素を目指しています。事実、現代の北欧メーカーは自社工場などにソーラーパネルを設置するなどエネルギーに対する取り組みを自社ウェブサイトで掲げており、私たちが見習うべきロールモデルとなっています。


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