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JOURNAL / FROM HIKE / FURNITURE HISTORY / ANT CHAIR BY ARNE JACOBSEN



名作家具ヒストリー VOL 001

アルネ・ヤコブセンが1952年に発表した「アントチェア」 世界で初めて座と席一体の3次曲面を実現した椅子として知られる。

この椅子の開発のモチベーションとなったのは、フィンランドのアルヴァ・アアルトが1932年に発表した、座と席一体の2次曲面「パイミオチェア」、アメリカのチャールズ・イームズが1946年に発表した背と座が別々ながら3次曲面のチェア「DCW」。特にイームズのことを意識していたヤコブセンは彼の作品を超える椅子のデザイン、つまり座席一体構造の椅子の完成を目指した。

   デザイン画を起こし、デンマークで唯一曲木の形成技術を持っていたフリッツ・ハンセン社に話を持ちかけるが、製品化するには採算が合わないという理由で、何度も断られた。 そんなある日、ヤコブセンのクライアントであったデンマークの製薬会社ノボ・ノルディスクの会長が、ヤコブセンのオフィスを訪れた際にアントチェアの模型を見つけ素晴らしいデザインだと称賛したのを受けヤコブセンは、「これは、あなたの会社の為にデザインした椅子です」と機転を利かし社員食堂用の椅子として300脚の注文を取り付ける事に成功。 フリッツ・ハンセン社に対しては、この先椅子の売れ行きが思わしくなければ、自ら買い取ることを条件とし生産にこぎつけた。

  製造過程においても試行錯誤の毎日。 薄いベニア9枚を組み合わせた後に曲げて形成していくのだが、どうしても背面と座面の曲面が交差する部分でクラックが生じてしまう。 そのクラックの入った部分を削ぎ落としては、強度の確認を繰り返していくうちにたまたま美しい形を見つける事ができようやく現状のデザインに収まった。 開発当初は、色々な箇所にクラックが見られそれを補修する為にパテで埋め、そのパテが目立つので黒く塗装をしていた。 その為、この椅子を見た工房スタッフのひとりが「まるでアリのようだ」と言ってこのニックネームがついたと言われている。

  成形合板の本体に対して、ヤコブセンは異素材の組合せにこだわり脚部はスチールパイプを採用、食堂の円形テーブルに合わせてお互いの脚がぶつからない様にと脚は3本に、300脚という椅子が並ぶ際によりスッキリと見える様配慮もなされてアントチェアは完成する。 (より安定感を高める為、ヤコブセンの没後4本脚がラインナップされた) ヤコブセンのデザインへのあくなき追求とそれを形にしてみせたフリッツ・ハンセン社だからこそ生まれた名作と呼ぶにふさわしい家具といえる。


記者:谷山


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FROM HIKE

JOURNAL ON 28TH APR 2018

FURNITURE STORY VOL 001
ANT CHAIR BY ARNE JACOBSEN