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“心地良い”とは、何でしょうか。

“心地良い”ということばの仲間に“居心地”がありますが、居心地とはまさに読んで字の如く、そこに居るときの自分の心の状態のことを指します。そして多くの人にとって、居心地の良い場所の一つに、自分の家や部屋があるのではないでしょうか。そこは自分自身が敏感に良いと感じるものを集めたり、良くないと感じるものを摘みとったりして出来上がっていく非常にパーソナルな場所。そこに居る自分は飾らずありのままで、自分の内面はしっかりそこに映し出されます。

いつも以上にゆっくり自宅を眺め、その時の自分をしっかり見つめてみると、“居心地“の良さを感じるきっかけとなるものがどこにあるのかがうっすらと分かり始め、そしてそれらを通して、自分自身の心が今どうあるのかが浮き彫りになります。 日本には、大抵の人があまり好まない梅雨という季節があります。それと同じように、北欧にも、暗くて長い冬があります。外にはあまり出かけず自宅で過ごす時間がいつもより長くなる季節です。北欧の人々はそんな長い冬の間に、何が心地良く、自分の心が幸福感を感じられるのはどんなことかを、しっかりと見つめていたのでしょう。色鮮やかで美しいテキスタイルが生まれたのも、温もりある木材を使った素晴らしい意匠の家具が生まれたのも、必然なのです。自分を見つめ、生活を見つめ、どんな時も心地良い暮らしを目指した人々のデザインする家具には、そんな視線や知恵が詰め込まれています。それらに囲まれながら、自分の生活についてじっくり考察してみると、思いがけないところに心地良さを感じるきっかけのものごとを発見するかもしれません。

雨で退屈な部屋の中に微かに聞こえる雨粒の音の美しさを見つけたならば、その音と調和する音楽をかけてみたり、それに合わせていつも手にとっていなかった写真集を開いてみたり。薄暗いグレーの雲を透過した光が部屋に差し込んだ時、壁に映る陰影が晴れの日のそれよりドラマチックなことを見つけたならば、そこにお気に入りの絵を飾ってみたり。あるいは、どうしても雨の日の家がじめじめと好きになれない自分がいて、重い身体が布団から出ることを拒むならば、とっておきのベッドシーツを買って思う存分に寝転ぶ日を楽しんだって良いでしょう。しとしと降る雨を部屋の中から眺めていたら、木々が雨露の中で生き生きしていることに気がついたならば、紫陽花を一輪コップに活けて、その葉を濡らして眺めてみませんか。そこには晴れの日に見つけられなかった初めて見るような部屋の表情や心地良さがきっとあります。

“心地良い”とは、何でしょうか。

それは通常五感のいずれかを介してもたらされるものであり、それを感じとる主体は自分のみ。頬を撫でる風や肺いっぱいに広がる草花の香りに心地良さを覚えるときもあれば、それに違和感を覚えるときもあります。着古したシャツの肌触りに心地良さを感じる人もいればその逆もまた然りです。 五感を刺激するそれらのものごとと自分との間にがさがさとした摩擦が生まれたとき、心地良いという感情からは遠い何かが芽生えます。一方で、自分の周りにあるものや環境などのありとあらゆる事象に対し、自分の心がフラットでありのままでいられ、なんの摩擦もなくものごとを受け入れることができた場合、それは“心地良い”という感情として私たちの心の中をじんわりと温めます。




テキスト / 守屋 / @yukina.moriya

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JOURNAL ON 15TH JUNE 2021

New Journal Vol.100 梅雨の中で