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JOURNAL / 写真家 原田教正へのインタビュー



「”新しいこと”を求められるストレスがすごくあった。いや、今もある」

写真家・原田教正さんの口から、何度か同じフレーズを聞いた。

「若い価値観、斬新な手法、誰も目を向けなかった被写体。とにかく新機軸であることを求められる。そこにすごく抵抗感、違和感があるんです」

2018年の夏、自身にとって初となる個展『a Shape of Material』を中目黒の〈みどり荘〉で開催した。テーマは「漂流物」。具体的な先行事例を挙げるまでもなく、テーマそのものに新鮮味を感じることは難しい。

「いかに定点観測的に、標本的に撮り溜めるか。新しくないものをやるっていうあまのじゃく根性。意思表示。ずっとあるものを自分なりにすごく絞って撮る。それがもし新しく見えたら、そういうことでしょ」

新しいことを、意識的に、する。それはときとして、本質的なものを見失う可能性を孕んでいる。手段が目的化してしまう例も少なくないから。原田さんはそのことに自覚的だからこそ、抵抗感を拭いきれないのかもしれない。

処女作となる写真集『Water Memory』を刊行したのは昨年のこと。そこには、2010年代の場所も時代も異なる被写体が収められているが、原田さんの一貫したまなざしが見て取れる。

「誤解されがちですが、水を撮った写真集じゃないんです。水を見るように撮ってきた作品。写真って、撮った瞬間からずっと変わらないのに、あらためて見返したときには、自分の置かれた環境、目線も変化しているじゃないですか。水は、川も海もそこにいけば実在する安心感がある。でも実際は、行くたびに流れているものは変わっているはずですよね。いつもそこにある。でも変わっている。それって、僕のこれまでの写真への向き合い方に重なるかなって」

筆者は原田さんとは10年近い付き合いだが、あるときから、原田さんのRAW現像の方法=仕上げの色味やコントラストが変化したのを目撃している。ここに収録された作品のいくつかは、作風が変化する前に撮られたものもあったはずだ。

「写真集に収録した作品は、あらためて今の作風で現像しなおしました。撮ったそのときの感情を再現するのは難しいし、自分自身の好みも当然変わった。当時シャッターを押したときにイメージした仕上がりとは違くても、視点や距離感みたいなものは変わっていないんだなって、自分でも発見したんです」

『Water Memory』というタイトルを決めたときのエピソードが微笑ましい。

「写真集の入稿直前にタイトルを決めなきゃってなった時、デザイナーさんに『実はこんなのがいいと思ってて……』と提案したら『めっちゃださいな。もっと斜に構えたものを出してくると思ったけど、素直でいいじゃん』って言われたんです(笑)」

今回の〈HIKE〉での展示は、その『Water Memory』をベースにしつつ、その延長線上にある新作も展示される。会場内に様々なサイズで出力された作品を見れば、作家のパーソナルで、そしてなにより素直なまなざしが、通奏低音のように響いてくるはずだ。

“新しいこと”から意識的に距離を置いても、世界は変わる。でも写真は変わらない。
それって今の感覚からすると、頼もしいことかもしれない。



原田教正 写真展「Water Memory」開催の詳細についてはこちらをご覧下さい。



取材、テキスト / 井手裕介 / 編集者
1992年生まれ。雑誌『Casa BRUTUS』編集部所属。
@ide_yus

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JOURNAL ON 14TH JULY 2021

写真家 原田教正へのインタビュー