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HIKE JOURNAL VOL.116


まだ眠い目を擦ってベッドから這い出る朝。朝食の匂いに誘われ寝室を出て、流れているラジオの音声を聞きながら何も考えずにぼけっとソファに沈み込む—そのひとときは、いつもそこにある風景に包み込まれながらも自分の居場所がまさにここにあるのだ、という忘れてはならない尊さや幸せを再認識するきっかけを与えてくれます。あるいは、外での用事が長引きすっかり帰りが遅くなった夕暮れ。まだ誰もいない家に帰り真っ暗の部屋の明かりをつけたとき、ぱっと空間に浮かび上がるいつものダイニングテーブルやソファ。その光景を見るやいなや、『ああ、家に帰ってきたな』と身体は自然とほどけていき、上着を脱いでおもむろにソファに腰を預ける—そのひとときは、ゆっくりと流れ始める一人だけの時間の贅沢さを私たちに教えてくれます。

そんなふうに、暮らしの中で無意識に身を置いてしまうような場所はありますか。もちろん全ての人にとってそれがソファではないはずです。人によってはそれはデスクだったり、トイレだったりするかもしれません。人間はとても敏感ないきもので、腰を落ち着ける場所の感触を繊細に感じ取ります。だからこそ無意識に身を落ち着けてしまう場所があるということは、それだけ自分自身とその場がシームレスなほどにフィットしているということなのでしょう。硬い木製の椅子の座り心地は、ある人にとっては幼い頃通った学校の勉強机と椅子を思い出させるかもしれませんし、あまりにふかふかの椅子はホテルのロビーを想起させどこか落ち着かない気持ちにさせられたりもするでしょう。ただある人にとってふかふかのソファは、自分の身体にぴたりと寄り添い、最大限の安心で包み込んでくれる欠かせない暮らしのパートナーになるのです。

そんな無意識に腰を落ち着けてしまう場所、心の底から安心できて、自分のための居場所だと何の疑いもなく感じられるその場所を求めて、私たちは長い旅を続けているようなものなのかもしれません。それがあるのとないのとでは、きっと日々の中で思いを巡らせたりするときの深度や、小さなものごとに感じる幸福感の温度というのが微妙に変わってくるものだと思います。思考の深度はより深く、そして感じる幸せはよりあたたかなものになるはずです。だからこそ、腰を落ち着けられる家具、例えばことソファや椅子に関しては、デザインや機能も決して無視することはせずとも、何より自分自身とのフィット感を大切に考えてみてもいいのではないでしょうか。長く共にしたソファの片隅が、気づいたときには自分の居場所だと、そう思える時がくるはずです。




テキスト / 守屋 / @yukina.moriya

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JOURNAL ON 28th FEB 2022

居場所