HIKE

JOURNALNews, Feature, Our Neighborhood And more

HIKE JOURNAL VOL.117


あちこちから春の報せが届き始める3月。毎日通過するランニングルートに植えられた木々が蕾を膨らませる姿に春の気配を感じたり、あるいはウールのコートを脱ぎ捨てて軽いジャケットだけで外出できる気温と身なりの変化に春を実感する人もいるでしょう。その視線を家の中へと向けてみたとき、春の兆しはどこにあるでしょうか。住む人それぞれ、千差万別さまざまな家があるでしょうが、おそらくそこに差し込む太陽の光の変化というのはどんな家にも共通して見出すことのできる四季の移ろいの姿ではないかと思います。冬の間は暗く寒かったリビングルームにいつの間にやら光が届くようになったり、ベッドルームに差し込む朝日の角度が変わったりと、見える姿やタイミングに違いはあれど、誰しもにそんな変化を感じる瞬間があるはずです。そして、差し込む光の変化があれば、部屋の明かりの使い方も無意識的に少しずつ、変化しているはずなのです。そんなふうに部屋の明かりは、使い方や使う時間を容易に変化させることができる家具のひとつです。設えた家具は大きな模様替えを別にしてあまり動かすことがないかもしれませんが、明かりは、そんな空間に変化と抑揚を生み出してくれるツールになります。

冬の間は夕方早くから明かりを灯していたリビングのペンダントランプ。春がくればその明かりに頼らずにいても十分に明るい空間が長く続きます。そんなときはソファ横にあるフロアランプを小さく灯してほのかな明かりで空間を照らしてみるのはどうでしょうか。朝のダイニングルームでは、いつも灯していたテーブルランプの明かりをつけずにいてもあたたかな朝日だけをめいっぱい感じながら朝食をとることができるようになる季節。柔らかい春の陽光は一年に一回だけ使える特別なライトになるでしょう。冬の間は寒くてほとんど過ごすことのなかったテラスでのひとときも楽しい季節になり、そんなときには持ち運びできるランプのコードを出来るだけ長く伸ばしてテラスまで持ち出し、夜風を浴びながら簡単な食事を楽しんでいたことも思い出します。まずはそんな日常の何気ない行為の一つひとつを見つめ直してみると、毎日暮らす家の中に表れる移ろいを発見でき、新しい季節をより深く体感できるようになるかもしれません。




テキスト / 守屋 / @yukina.moriya

FROM HIKE

JOURNAL ON 28th Mar 2022

春のひかり