JOURNALNews, Feature, Our Neighborhood And more

JOURNAL / FROM HIKE / RONAN BOUROULLEC POSTERS インタビュー



この度、HIKEにて「Ronan Bouroullec Posters」を開催致します。ロナン・ブルレックがFLOS storiesにてドローイングについて語っているインタビュー記事を抜粋、翻訳いたしました。彼自身の生い立ちからはじまりプロダクトデザインについてまで興味深いインタビュー内容です。ご来店前にご一読いただけましたら幸いです。


ROSA BERTOLI:この視覚的な言語をいつから描きはじめたのですか?

RONAN BOUROULLEC:絵を描くことはいつも私がしてきたことです。描くことが自分の言語であることを理解したのは、おそらく10歳前後だったと思います。私は田舎で育ち、5歳年下の弟がいましたがとても孤独でした。壁でテニスやサッカーをしたり絵を描いたりして、フランス語でいうところのコンパニオン、絵を描くことは友達のような存在でした。

ROSA BERTOLI:絵を描くことはあなたにとって逃避の手段だったのでしょうか?

RONAN BOUROULLEC:逃避の一形態でした。絵を描くことは私にとって喜びでもありますが、緊張や苦悩と戦うための方法でもありました。今は朝起きてすぐに絵を描きはじめられる週末が待ち遠しいです。私は閉所恐怖症なのですが、もし私が囚人になってしまっても十分なスペースがあり、紙とペンがあれば生き延びられると思います。



ROSA BERTOLI:あなたが絵を描いている様子を想像してみたのですが、私にはとても直感的で瞑想的なプロセスのように見えました。

RONAN BOUROULLEC:ええ、自然発生的なものです。だからドローイングについてなんて説明していいのかわからないのです。全く計画されたものではないのです。ドローイングを描きはじめるとき、最終的な完成について考えたことはありません。それは粘土を使うようなもので線が一つ一つ堆積するように積み重なっていき、まるで編み物のようなものです。付け足すことでまた何か別のもの生まれる、そこからまた別の線や形がやってくる極めて有機的なものなのです。

と同時にこの単純で素朴な作業を継続するのはとても難しいことだとも思っています。私はマティスにますます興味を持つようになりました。私はずっとマティスに注目しているのですが、彼は自分の作品についてあまり多くを語りませんでした。マティスは自分の仕事のやり方にある種の素朴さを維持しようとしていました。しかし40年間絵を描き続けてきた私にはそれはとても難しく、デザインでも同じことが言えます。デザイン技術の専門家になってしまわないよう、一定の距離感を保つために日々努力しなければなりません。なぜならそれはすぐに退屈になり新鮮さを失ってしまうからです。

私は自分のドローイングを人に見せることはありませんでした。なぜならデザイナーとしてなぜ自分がドローイングをしているのかを自身に対して説明しなければならないからです。みな境界線を大切にしていることを知っているし、何かをするときには自分の専門分野がどうあるべきかをきちんと尊重しないといけないからです。

しかしインスタグラムがこの状況を一変させました。インスタグラムにとても興味があります。私は視覚的な人間なので毎日撮影をします。私にとってインスタグラムは作品を見せるための面白いメディアであり、誰かが地下鉄でグラフィティをするようなものです。キース・ヘリングは地下鉄にグラフィティを描く理由について1日に30万人もの人が自分の絵を見ることができると説明していましたが、インスタグラムでもまったく同じことが言えます。即効性があり、多くの人と何かを共有できる可能性があり、私にとってはギャラリーでの展示よりも興味深いものです。

ROSA BERTOLI:ドローイングを描く行為が個人的な逃避行であれば、そのような期待感がプレッシャーになることもありますか?

RONAN BOUROULLEC:たまに絵を描いて酔っぱらって写真を撮ってインスタグラムに投稿すると、翌朝には絵がひどく下手なことに気づいて絶望することがあります。20万人の人々が何かを見ている世界への扉を開くというのは興味深いことです。でも私のインスタグラムの面白さは計算されていないところにあると思うんです。ドローイングもそうですが、プロトタイプ(試作品)を共有することにも喜びを感じています。



ROSA BERTOLI:あなたのデザインワークとドローイングワークはまったく別のものですが、それらが重なり合ったり影響し合ったりすることはありますか?

RONAN BOUROULLEC:おそらくね。でも、それをどう表現したらいいのかよくわかりません。私はデザインにとても興味があります。良いアイデアがあれば検討を重ね、面白い方法で適正な価格で共有できればと思っています。私はとても質素な家庭で育ち、学校の友人たちはお金持ちではありませんでした。だから彼らの庭に置けるようなオブジェをデザインできることはとても幸せなことだと思っています。一方でフラストレーションが溜まることもあります。デザインは最初のアイデアからストアに並ぶまでに何年もかかります。まず兄と戦い、次にエンジニアと戦います。良い意味なのですが、私はこのプロセスが嫌いではありません。その途中経過の1日の中で自分が満足するものができたとき、とても幸せな気分になれるからです。

ROSA BERTOLI:創造の瞬間ですね。

RONAN BOUROULLEC:はい。私にはそれが必要です。もちろん、ドローイングは最も...純粋とは言いませんが、何かを瞬時に作るには最も簡単な方法です。紙さえあれば、紙やペンの質にもこだわらず、ガソリンスタンドのボールペンでもいいんです。

ROSA BERTOLI:あなたのドローイングは抽象的ですが、よく見るとテクスチャーや見慣れた形、素材の折り目など、抽象的になりすぎないように工夫されています。自分自身でドローイングをどのように見ていますか?また、抽象的か具象的かについて考えたことはありますか?

RONAN BOUROULLEC:いいえ、そんなことは気にしたことがありません。ドローイングで何かを見出してくれようとする行為はとても嬉しいです。それが植物や体の一部に見えたり、官能的なものだったり、神秘的なものに見えたり、時には恐怖に感じたりすることもあるかもしれませんが、計画的なものではありません。よって私の描いたドローイングが抽象的かどうかはわからないのです。ドローイングは自発的かつ自動的におこなわれ、同じことの繰り返しであることがとても多いのです。マティスはまったく同じことを繰り返していたので、それは逃避手段だったとマティス自身も言っています。私の場合も同じでドローイングをしていると完全に自分を見失ってしまい描き終えたときには、その20分や1時間の間に何が起こったのかを覚えていないのです。

ROSA BERTOLI:どのようにしてドローイングを完成させるのですか。用紙にドローイングを埋め尽くしたとき? または好きな形にたどり着いたときでしょうか?

RONAN BOUROULLEC:家族のために料理をしなければならないので急いで完成させてしまうこともあります(笑)。興味深いのは家族に囲まれた状態、家の真ん中でもドローイングを描くことです。小さなテーブルでも構わないのです。整理されていない状態、その新鮮さを保ちたいのです。もし私がドローイングのアトリエを持っていたならば、その専門家となって、鉛筆を整えたり数ある中から色を選んだりするでしょうが、私はそれを望んでいません。年々ドローイングの種類は増え色の種類も増えてきていますが、周辺は変わらず整理整頓されておらず、大体は一番身近にあるペンを取って描き始めます。何か重要なことをしなくてはならない気分になりたくないので、整理されていない新鮮さを保ちたいのです。



ROSA BERTOLI:ドローイングについてよく聞かれると思いますが、ドローイングについて誰かに言われた一番不思議なことや、あなたが驚いたことは何ですか?

RONAN BOUROULLEC:私はとても孤独な人間なので、常にインスタグラムというメディアを利用してドローイングを公開しています。ドローイングだけの展覧会を2、3回行いました。オープニングには行かなかったし、インスタグラムでは質問にも答えませんでした。もちろんコメントを読むこともありますがあまり気にしていません。ある種の素朴さでドローイングを描き続けることはとても難しいことだと思っています。デザインの仕事全般にも言えることですが、同じことを繰り返したくないと思っていますが、ドローイングについては、ただ無心になって同じことをやり続けることだけを考えています。


FLOS Stories より抜粋、翻訳。
全ての画像はロナン・ブルレックからの提供となります。


企画展「RONAN BOUROULLEC POSTERS」

会期 : 2022年10月29日(土)-11月6日(日) 12:00-18:00 火・水曜日定休
会場 : HIKE 東京都目黒区東山 1-10-11



企画展概要はこちらをご覧ください。


FROM HIKE

JOURNAL on 6th OCT 2022

RONAN BOUROULLEC POSTERS インタビュー