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21時頃から、ゆっくりと時間をかけて日が沈んでいく。空の表情はドラマチックに移り変わる。パステル調のブルーとピンクが淡く混じり合っているかと思えばその向かい側の空には立体的で巨大な雲がもくもくとそびえ立っていたりする。読めない、そして大胆。

気温は朝晩の寒暖差が強くあるというよりは、1日の中で何度も寒暖の波があるというイメージだ。服は調節ができるように何層ものレイヤーが必要で、真夏でもセーターやコートが活躍するタイミングがある。そしてセーターを編むのも、夏の過ごし方として健在だ。

編み物だけをする、というより、サングラスをかけ太陽の光を浴びながら、Podcastを聴きながら、時には会話する傍らで手を動かす。

編み物ブームはここ数年で拍車がかかったそうだ。私がコロナ禍の最中にデンマークに短期留学した際、授業中に自由に絵を書き、編み物をしながら先生の話を聞く子が多くいたことに驚いた。先生から咎められることはなく、逆に質問を投げかけられた際には皆率先して発言する。とても好きな光景だった。大学の授業でも同様なことが多いそうだ。「義務教育を終えた彼らが授業を聞くも聞かないも個人の自由であり、聞かなければ自分の勉強にならないだけ。」という考え方が根底にある。

友人たちは、編み物をすると、自分の好きな色や質感の毛糸が手の中にあることで温かい気持ちになる、より耳から入ってくる言葉に集中しやすい、編む時の一定のリズムが心地良い、今この瞬間も何かを自分が生み出していると思えることが嬉しいと教えてくれた。

小さな頃から何が自分にとって幸せで、何が不幸せなのかを考えるように言われて育っている。なぜこの方法で、この時間を過ごすのかを考えることもその延長線上にあるのだろう。そして自分の感覚を素直に捉えた上で日々の対話を積み重ねているので、何が人の自由や幸せを阻害しかねないかという配慮があるなと感じることが多い。

こちらの多くの部屋が道路側であろうとカーテンを締めずに開けっぴろげに生活出来るのも良い例だろう。オープンでいたい、光を取り込みたい人たちのプライベートを邪魔しないよう、家の中をじろじろ見ないという道行く人の無意識の配慮によりそれが可能になっている。

絶妙な信頼のバランスの上で成り立つ社会だ。



写真・テキスト / 藤原葉子 / @yokofujiwar
1990年アメリカ生まれ、日本育ちの写真家。上智大学卒。
2017年野口 貴司氏に師事し、2020年デンマークでの撮影を開始した。
人々の暮らしの中にある光や色彩に魅せられ、カメラを向けている。

FROM HIKE

JOURNAL on 17th Aug 2023

デンマーク、夏に見た編み物と幸せの関係