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JOURNAL / アトリエの仕事「究極の0を作る」



ものが壊れたら捨てる。今や数年後に廃棄することを前提とした製品が溢れ、私たちの生活の利便性はそれに依存している。一方で、長く使われてきたものを受け継ぎ、未来へ繋げようとする作り手や使い手たちもいる。弊社のアトリエでメンテナンスに携わるスタッフ達もまた、2000年のハイク設立時に掲げた「物質の循環」「自然との共生」を社会的役割とする中で日々試行錯誤を重ねている。彼らは何を想い、どのような価値観で仕事に励んでいるのか。弊社に入社して一年経ったアトリエスタッフの緑川さんに、その鮮度の高い視点とこれまでの経験から話を伺った。


この道に入ったきっかけは何ですか?

「以前はバリスタをしていたこともあり、交友関係も広がり他店のオープニングに顔を出していく中で個性ある空間に目を奪われ徐々にインテリアに興味が向いていきました。その興味の対象の中にハイクの企画展やウェブサイトも常にチェックしており、圧倒的に文字数の多いジャーナルや商品コメントを読んで楽しんでいました。そんな時、たまたまコーヒースタンドにお客としていらっしゃっていたハイクオーナーとお話する機会があり、スタッフとして誘っていただき、迷わず入社しました。」


アトリエマネージャーからはじめに何を教わりましたか?

「まずはじめに我々がどのような社会的目的を持ってこの仕事に携わるのか。技術的な部分ではメンテナンスのクオリティの基準、樹種の種類、それらの違いなど細かく教わりました。実際の作業としては紙やすりで家具の表面についた50年分の傷や汚れを落とすためのサンディング(研磨)を学びました。一度削り過ぎれば戻りませんから、緊張感と共に慎重に作業していたのを覚えています。」


一言でメンテナンスと言うと簡単に聞こえるが、覚えることも多いうえ責任が大きく、後戻りできない難しい作業の連続である。


「一番驚いたのは、木を削った時の色の変化を理解するまでに、とても頭を使いました。ローズウッドだったら削れば削るだけ色が深くなりますが、オークは一回白くなり、だんだんと鮮やかな色味に戻って行く。しかも日焼けや経年変化によって個体差があり、削りながら今はどの段階なんだろうと目で指で触れて確認し続けました。それに北欧ヴィンテージには曲線や曲面を活かしたデザインも多く、また人が触れる場所は状態が違ったりと、それを見極めるのがすごく難しかったです。マニュアルはなくて、経験で知って行くしかない。」


基本より一歩深みへ踏み出せば、そこでは自分の感覚と経験値のみが頼りになる。どのようにハイクとしてのクオリティが保たれているのか。


「作業中に気になったことや注意点はスタッフ間で都度共有しています。アトリエスタッフは各々の作業に集中していますが、それだけだとやはり気づかないことも出てきますのでコミュニケーションを取る時間は大切にし、全員の視点がひとつの家具に向かっていく様がハイククオリティの礎になっていると思います。メンテナンスを終えた後には、撮影する、テキストを書く、ディスプレイをする、販売する、納品するスタッフへと繋がっていきますので、それぞれがそのセクションのプロとして活動しなければならい緊張感は常にあります。」


小さな気づきが、個人ではなくチーム全体に蓄積されていく。それによって実現される繊細なメンテナンスは、一人では到達できないクオリティに達するだけでなく、簡単にはブレないものになり、それが強度を持って最後まで引き継がれていく。


メンテナンスしているからこそ気づく北欧ヴィンテージ家具の魅力は何ですか。

「北欧ヴィンテージ以外でも素晴らしいヴィンテージ家具はたくさんありますけど、どこか素材も含めて積み重ねられた想いが足りないような気がしています。また分解した際に構造的な美しさはもちろんですが、貴重な木材に触れられる(現在では環境問題もあり伐採禁止のなっている木材も当時の北欧家具では多用されている)機会も多く、最後にオイルを塗布した際に浮かび上がる木目の美しさいつも目を奪われます。我々だけに与えられた特権と思っています。」


「また50年代の北欧の住宅は狭く住環境も決して良くないと聞いています。テーブルに拡張性があったり、本棚がデスクになったりと一つの家具が二つ三つの役割を果たすことができる。当時、国策としてデンマーク国民の生活水準を高めるために著名なデザイナーが考え尽くした家具だからこそ半世紀が経過した今でも人々を魅了するのではないでしょうか。僕らがメンテナンスに携わることで家具がもう50年、新たなオーナーと寄り添いながら家具としての役割を果たし続けられることが我々のゴールでもあります。その一旦を担うことができ嬉しく思っています。」

緑川さんの語るエピソードや言葉の端々からは家具への愛が伝わってくるが、彼はこの仕事を「究極の0を作る」ことと表現する。彼の熱意とは反対に、その謙虚な言葉は意外でもある。彼の考える「0」とは何か。


「心がけているのは、実際に使用しているイメージを持ちながらフィニッシュに持っていく事です。扉の開閉の感触にしても、重量感のあるアイテムならスムーズすぎても安っぽくなりますし、動作に支障がない前提で絶妙な調整をしています。ヴィンテージはコンディションが1つとして同じものがないので、あらゆる角度で向き合っています。色目に関しても照明下でなく、自然光の元でいくつかの角度から色調や艶感を目視し、この木材に対して違和感がないかどうか最終確認します。自分達の仕事は、いかに0の状態にもっていくか。マイナスもなければ、何かを足してもいけない。究極の0でハイククオリティなのかなと思います。付加価値のようなものは、お客様が使う中で自然についてくる。」


どんな熟練の木工職人にかかっても、家具を新品に戻すことはできない。隅々まで傷をならし、ジョイントを強固につなぎ直しても、そこには消えることのない時間の蓄積が経年変化として残っている。しかし「究極の0を作る」と言う彼の言葉には、メンテナンスという仕事の本質が宿っているようだ。彼らが受け継ぐのは物質としての家具だけではない。家具の声を聞けば、木という素材にかつてのデザイナー達が込めた意思が伝わってくる。アトリへスタッフはただその意思を可能な限り鮮やかに家具に込め直し、もう一度未来へと繋いでいく。

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JOURNAL ON 28th Feb 2025

アトリエの仕事「究極の0を作る」