HIKE

JOURNALNews, Feature, Our Neighborhood And more

JOURNAL / FROM HIKE / 夏こそウールを



6月になると、太陽は高く昇り、けれども光は柔らかく、春と夏が入り混じります。窓から差し込む陽射しは、風でなびくレースカーテンの嬉々とした揺らぎで空間にほのかな動きをもたらし、気持ちは少しずつ外へと開いていくようです。身にまとう衣服が薄着になると椅子やソファの感触を直に感じるようになりますが、肌触りのよいテキスタイルは心地よく、家具がもつ本来の魅力や機能性を高めたり、色や織でユーザーの個性を表現できます。今回のJOURNALでは、その様な季節の移り変わりに暮らしを快適にしてくれる素材のとしてウールをご紹介いたします。


秋冬のコートやニットに用いられるため、一般的には暖かいという印象で馴染み深い素材ですが、実はインテリアでは1年を通して快適な素材として重宝されています。ウールは人の髪と同様の成分で構成されており、繊維そのものが螺旋状に撚られたクリンプ構造により、空気を含み、優れた保温性や通気性を発揮します。また、ウールの表面はスケールと呼ばれる微細なウロコ状の組織に覆われることによって調湿効果が備わり、多湿な日本の夏でもサラっとした肌触りを保ち、乾燥する季節には蓄えた水分を放出します。さらには、繊維の表面には適度な油分を纏っている為、汚れをすぐに吸収せずに留めていますから、万が一のときも焦ることなく汚れを落とせることが出来るのも大きなメリットです。




ウールは羊が毎年生み出す持続可能な資源です。春から初夏にかけて刈り取られた毛は1年かけて再生される、その営み自体が「循環」の象徴と言えます。しかも、ウールは生分解性を持ち、土中では数カ月から1年以内に自然分解されるため、廃棄後にマイクロプラスチックのような環境負荷を残しません。さらには使い込むほどに艶を纏い、製品に対する愛着を育むという点でも優れた素材であり、長く使うことが私たちにできる最大のサステナビリティと言えるでしょう。


暮らしを整える手段として、家具を新たにする以外には手持ちの椅子やソファを張替えたり、ラグやカーテンを交換するなど、テキスタイルによってコーディネートをアップデートすることができますが、そこで、ウールの優れた染色性にも触れます。繊維表面にあるスケールは、染料が繊維の内部に浸透しやすくする役割も果たしており、鮮やかで深みのある色合いを長く保つことができますから、メーカーやデザイナーのオリジナリティを表現してくれる頼もしい存在であり、豊富な種類から自分らしいテキスタイルを選びとる楽しみを与えてくれます。




間もなく梅雨を迎え、静かでしっとりとした季節となります。季節が移ろうこの時期、窓の外の雨音に耳を澄ませながら、お気に入りの椅子に座って読書をしたり、湯を沸かしたり、住まいの中で感じる日常に少しだけ敏感になってみる。普段何気なく触れているテキスタイルについて考えてみることは、この季節だからこそできる有意義なときのように思います。


写真、テキスト:中島

FROM HIKE

JOURNAL ON 29th May 2025

夏こそウールを