JOURNAL / FROM HIKE / カーテンが纏う日常の景色
最近カーテンについて深く意識することとなる2つの出来事があった。
1つはHIKEでインテリアコーディネートをさせていただいたお客様のお住まいに訪問する機会を得たこと。リビングに入ると目の前には大開口の窓に掛かる美しいリネンのカーテン。広々とした空間がカーテンを透過した優しい光で満たされることで、外の猛暑や喧噪を忘れさせ、空気が澄んでいるような爽やかな光景が広がっていた。
生地には一切の継ぎがなく、規則正しくも柔らかなドレープが連続する姿は光と布が織りなすインスタレーションのようにも感じられる。そのようなことを考えていると、ふと昨年Instagramで見たニューヨークのDia Beaconで展示されたFelix Gonzalez-Torresの作品「Curtains」が脳裏に浮かんだ。彼は鑑賞者が触れたり、前を横切る際に生まれる空気の流れにより、カーテンがゆらめくことも含めての作品と考えていたようだが、お客様のお住まいが高層階のため、窓を開けていない状況下においても人が触れ、横切る風でふわりとカーテンがなびく様子を見ていると、一見静かに佇むカーテンが住まい手のフィジカルな部分と密接な繋がりがあるように思えた。例えば、朝寝室のドレープカーテンを開けると朝日が入り、一日の始まりを心と身体に告げ、夜カーテンを閉めると外とは隔絶された内省の時間を得られ、守られているような安心感がもたらされる。これは、開け閉めするという行為そのものが、心身のモードを切り替えるスイッチ的役割を果たしているように思う。物理的に内と外を仕切る境界線でありながら、心理的なトリガーでもあるカーテンの存在の深さを改めて感じ、日々の始まりと終わりを素敵なカーテンで迎えることができたら幸福なことだろうと思わせていただけた訪問だった。
もう1つの出来事は自宅のカーテンを買い替えたこと。今の住まいに引っ越してから使用していたカーテンも気に入っていたが、部屋の模様替えを機に買い替えを決意。新たにカーテンを選ぶ際に大切にしたかったのは、空間に溶け込むシンプルな白のレースであることと外と内を緩やかにつなぐ透け感だった。
そこで、HIKEの数あるサンプルの中からセレクトしたのは清潔感のあるインポートのレース。素材は化繊のため、丈夫で洗濯も容易なことから使い勝手が良く、その上マットな表情と肌理の細かい織りが気に入っている。新しいカーテンを使用して3ヵ月ほど経過したが、カーテンが空間と自身に与える影響力の大きさを再認識している。シンプルな生地だからこそ、絶妙に計算されたヒダの数や山の間隔などの仕立て、裾の丁寧な縫製など、オーダーで製作したことで得られるディテールの美しさが鮮明になる。均整の取れたドレープが風でたゆたう姿は夏の容赦ない日差しを柔らかく受け流し、静けさを与えてくれるよう。以前日中は庭を眺めるため、カーテンを開けていることが多かったが、今はカーテンを閉めることで淡い光が拡散し、部屋の奥まで行き渡る環境下で趣味の読書や音楽を聴くのが心地良い。そして、閉め切っていても開放感が損なわれないのは、庭の草木が風にそよぎ、日差しが隣接する建物に当たり、傾いていくなど外界の様子がおぼろげながら伝わるからだろう。単純に遮るという機能だけではない、心身が整う感覚をもたらしてくれるカーテンは快適な生活に欠かせない存在となった。
お気に入りのカーテンを掛けることで自然と窓へと意識が向くようになり、徐々に光や季節の変化への感覚が繊細になってきたように思う。風が揺らす布の動き、午後の光が落とす影、雨の日の静けさとカーテン越しの柔らかな雨音、それら暮らしの中の小さな気配の積み重ねが日常にそっと彩りを添えてくれることだろう。
記事:萱野
JOURNAL ON 14th Aug 2025
カーテンが纏う日常の景色
STORE INFORMATION
1-10-11, Higashiyama, Meguro-ku, Tokyo, 153-0043 JAPAN Open Thur - Sun 12:00-18:00 Closed Mon, Tue & Wed 03-5768-7180(T) shop@hike-shop.com HIKE Area Map
JOURNAL / FROM HIKE / カーテンが纏う日常の景色
最近カーテンについて深く意識することとなる2つの出来事があった。
1つはHIKEでインテリアコーディネートをさせていただいたお客様のお住まいに訪問する機会を得たこと。リビングに入ると目の前には大開口の窓に掛かる美しいリネンのカーテン。広々とした空間がカーテンを透過した優しい光で満たされることで、外の猛暑や喧噪を忘れさせ、空気が澄んでいるような爽やかな光景が広がっていた。
生地には一切の継ぎがなく、規則正しくも柔らかなドレープが連続する姿は光と布が織りなすインスタレーションのようにも感じられる。そのようなことを考えていると、ふと昨年Instagramで見たニューヨークのDia Beaconで展示されたFelix Gonzalez-Torresの作品「Curtains」が脳裏に浮かんだ。彼は鑑賞者が触れたり、前を横切る際に生まれる空気の流れにより、カーテンがゆらめくことも含めての作品と考えていたようだが、お客様のお住まいが高層階のため、窓を開けていない状況下においても人が触れ、横切る風でふわりとカーテンがなびく様子を見ていると、一見静かに佇むカーテンが住まい手のフィジカルな部分と密接な繋がりがあるように思えた。例えば、朝寝室のドレープカーテンを開けると朝日が入り、一日の始まりを心と身体に告げ、夜カーテンを閉めると外とは隔絶された内省の時間を得られ、守られているような安心感がもたらされる。これは、開け閉めするという行為そのものが、心身のモードを切り替えるスイッチ的役割を果たしているように思う。物理的に内と外を仕切る境界線でありながら、心理的なトリガーでもあるカーテンの存在の深さを改めて感じ、日々の始まりと終わりを素敵なカーテンで迎えることができたら幸福なことだろうと思わせていただけた訪問だった。
もう1つの出来事は自宅のカーテンを買い替えたこと。今の住まいに引っ越してから使用していたカーテンも気に入っていたが、部屋の模様替えを機に買い替えを決意。新たにカーテンを選ぶ際に大切にしたかったのは、空間に溶け込むシンプルな白のレースであることと外と内を緩やかにつなぐ透け感だった。
そこで、HIKEの数あるサンプルの中からセレクトしたのは清潔感のあるインポートのレース。素材は化繊のため、丈夫で洗濯も容易なことから使い勝手が良く、その上マットな表情と肌理の細かい織りが気に入っている。新しいカーテンを使用して3ヵ月ほど経過したが、カーテンが空間と自身に与える影響力の大きさを再認識している。シンプルな生地だからこそ、絶妙に計算されたヒダの数や山の間隔などの仕立て、裾の丁寧な縫製など、オーダーで製作したことで得られるディテールの美しさが鮮明になる。均整の取れたドレープが風でたゆたう姿は夏の容赦ない日差しを柔らかく受け流し、静けさを与えてくれるよう。以前日中は庭を眺めるため、カーテンを開けていることが多かったが、今はカーテンを閉めることで淡い光が拡散し、部屋の奥まで行き渡る環境下で趣味の読書や音楽を聴くのが心地良い。そして、閉め切っていても開放感が損なわれないのは、庭の草木が風にそよぎ、日差しが隣接する建物に当たり、傾いていくなど外界の様子がおぼろげながら伝わるからだろう。単純に遮るという機能だけではない、心身が整う感覚をもたらしてくれるカーテンは快適な生活に欠かせない存在となった。
お気に入りのカーテンを掛けることで自然と窓へと意識が向くようになり、徐々に光や季節の変化への感覚が繊細になってきたように思う。風が揺らす布の動き、午後の光が落とす影、雨の日の静けさとカーテン越しの柔らかな雨音、それら暮らしの中の小さな気配の積み重ねが日常にそっと彩りを添えてくれることだろう。
記事:萱野