JOURNAL / FROM HIKE / 「整える力」と「揺らす力」
HIKEには、姉妹店のLICHTがある。 LICHTはポストモダン、現代の作家による家具、そしてデザイン性の高いプロダクトを扱う。 両店を行き来する立場である私が感じるのは、北欧家具とポストモダン家具が単なる「対極」ではなく、 異なる時代を生きながらも、“人の感性を軸にしたデザイン”という点で深く共鳴しているということだ。
北欧家具は、戦後の復興期に「人が穏やかに暮らせる環境をどうつくるか」という問いから生まれた。 アルネ・ヤコブセン、ハンス・ウェグナー、ボーエ・モーエンセンらは、過剰を排し、 素材と構造の誠実さを重んじながら、デザインによって“良い暮らし”を支えることを目指した。 そこには、社会全体を穏やかに包み込むような静かな理想主義があった。 素材が持つ温かみや、使い続けることで深まる表情。 それらは、使う人の感情と空間を穏やかに整え、静けさと安定をもたらした。
それから数十年後の1970〜80年代。 大量生産と機能主義が社会に行き渡り、経済が成熟し、デザインは「機能」や「合理性」だけでは語れなくなった。 若い建築家やデザイナーたちは、その硬直したモダニズムに疑問を抱く。 彼らは「意味のある形とは何か」「感情を持つデザインとは何か」を問い直す。 そこから生まれたのがポストモダンである。 メンフィス(Memphis)を中心に、ポストモダンデザインの潮流が広がった。 エットレ・ソットサス、 ミケーレ・デ・ルッキ、 倉俣史朗らが打ち出したのは、 既成概念からの解放だった。 彼らは「機能美」という近代の価値を軽やかに裏切り、 大胆な色彩、装飾、異素材の組み合わせで“感情のデザイン”を試みた。 家具が遊びや違和感をもって空間に語りかけ、 固定化された秩序を軽く揺さぶり、見る者の感性を目覚めさせた。
両者はアプローチこそ異なるが、どちらも「人の感覚と生活に寄り添うデザイン」であることに変わりはない。 一見、正反対のように思える二つのデザインも、実際に同じ空間に置くと、意外なほど自然に呼応し合うことがある。 北欧家具の「整える力」と、ポストモダンの「揺らす力」が重なることで、空間に豊かなリズムが生まれる。 北欧の家具をベースに、ポストモダンの感性をほんの少し差し込む。 あるいはその逆に、表現の強い家具を北欧の静けさで包み込む。 異なるものが調和すると、空間はより深く、豊かになる。 価値観をつなぎ合わせながら、自分らしい調和を見つけていく。 その過程こそが、空間を整える楽しさの本質なのだろう。
記事:谷山
JOURNAL ON 30th OCT 2025
「整える力」と「揺らす力」
STORE INFORMATION
1-10-11, Higashiyama, Meguro-ku, Tokyo, 153-0043 JAPAN Open Thur - Sun 12:00-18:00 Closed Mon, Tue & Wed 03-5768-7180(T) shop@hike-shop.com HIKE Area Map
JOURNAL / FROM HIKE / 「整える力」と「揺らす力」
HIKEには、姉妹店のLICHTがある。 LICHTはポストモダン、現代の作家による家具、そしてデザイン性の高いプロダクトを扱う。 両店を行き来する立場である私が感じるのは、北欧家具とポストモダン家具が単なる「対極」ではなく、 異なる時代を生きながらも、“人の感性を軸にしたデザイン”という点で深く共鳴しているということだ。
北欧家具は、戦後の復興期に「人が穏やかに暮らせる環境をどうつくるか」という問いから生まれた。 アルネ・ヤコブセン、ハンス・ウェグナー、ボーエ・モーエンセンらは、過剰を排し、 素材と構造の誠実さを重んじながら、デザインによって“良い暮らし”を支えることを目指した。 そこには、社会全体を穏やかに包み込むような静かな理想主義があった。 素材が持つ温かみや、使い続けることで深まる表情。 それらは、使う人の感情と空間を穏やかに整え、静けさと安定をもたらした。
それから数十年後の1970〜80年代。 大量生産と機能主義が社会に行き渡り、経済が成熟し、デザインは「機能」や「合理性」だけでは語れなくなった。 若い建築家やデザイナーたちは、その硬直したモダニズムに疑問を抱く。 彼らは「意味のある形とは何か」「感情を持つデザインとは何か」を問い直す。 そこから生まれたのがポストモダンである。 メンフィス(Memphis)を中心に、ポストモダンデザインの潮流が広がった。 エットレ・ソットサス、 ミケーレ・デ・ルッキ、 倉俣史朗らが打ち出したのは、 既成概念からの解放だった。 彼らは「機能美」という近代の価値を軽やかに裏切り、 大胆な色彩、装飾、異素材の組み合わせで“感情のデザイン”を試みた。 家具が遊びや違和感をもって空間に語りかけ、 固定化された秩序を軽く揺さぶり、見る者の感性を目覚めさせた。
両者はアプローチこそ異なるが、どちらも「人の感覚と生活に寄り添うデザイン」であることに変わりはない。 一見、正反対のように思える二つのデザインも、実際に同じ空間に置くと、意外なほど自然に呼応し合うことがある。 北欧家具の「整える力」と、ポストモダンの「揺らす力」が重なることで、空間に豊かなリズムが生まれる。 北欧の家具をベースに、ポストモダンの感性をほんの少し差し込む。 あるいはその逆に、表現の強い家具を北欧の静けさで包み込む。 異なるものが調和すると、空間はより深く、豊かになる。 価値観をつなぎ合わせながら、自分らしい調和を見つけていく。 その過程こそが、空間を整える楽しさの本質なのだろう。
記事:谷山