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JOURNAL / FROM HIKE / 異なるデザインをつなぐ視点



私たちが取り扱うスカンジナビアンデザインは、木材の素朴な美しさを生かし、暮らしに寄り添う機能性を重んじています。 一方で、自由な発想やユーモアを取り入れた、造形的でプレイフルなデザインも存在しています。 まったく異なる価値観に見える両者も空間の中で「コーディネート」という行為を介すると、互いの個性が引き立ち、新しい調和が生まれます。 今回のJOURNALでは、スカンジナビアンデザイン、ポストモダン、そして現代のデザイナーたちが育まれた背景や思想をたどりながら、共通する価値観を見出し、コーディネートの視点からその関係性を考察していきます。

スカンジナビアンデザインの背景には、第二次世界大戦後の復興という明確な社会的課題がありました。北欧諸国は、福祉国家としての再建を進めながら「良い暮らしを国民に共有する」という理念を掲げました。デンマーク家具デザインの父と称されるコーア・クリントは人間工学・建築学・社会学を体系化したデザイン論を用いて、人の身体や生活動作を精密に分析した設計手法をとるなど、機能性を大切にしています。また、豊富な天然資源を活かして木材を中心に用い、素材がもつ有機的な美しさや、優れた木工技術による構造美と相まって世界的な評価が高まり、人々の生活を支える役割を果たすようになります。

一方、ポストモダンは産業社会が成熟した1970〜80年代に登場しました。機能主義が掲げた合理性や普遍性がデザインの主流となる中で、遊びの感覚や個性が失われていったことへの批評として生まれたのです。中心となったのは、イタリアの建築家エットレ・ソットサスをはじめとするメンフィス・グループ。彼らは「機能のための形」に抗い、装飾や色彩、異素材の組み合わせを積極的に取り入れることで、デザインに再び自由と感情を取り戻そうとしました。メンフィスの作品には、幾何学的なフォルム、ラミネートやプラスチックなどの人工素材、ビビッドな色彩、そしてポップカルチャーやアール・デコの引用が多く見られます。ソットサスが語った「デザインは形ではなく、意味を生み出す行為だ」という言葉の通り、人間の感情や多様な価値を肯定するメッセージでもありました。デザイナーは形をつくるだけでなく、社会に問いを投げかける思想家のような存在へと進化しました。

ポストモダンを経て、現代のデザインは単一のスタイルに収束することなく、多様なアプローチが共存する時代へと移行しました。自由な発想を受け継ぎながらも、社会や環境の文脈において、持続可能性や倫理、地域性といった要素を含めて再構築する動きが広がっています。 ジャスパー・モリソンは「スーパーノーマル」という概念を提唱し、過度な装飾を排して、生活に自然に溶け込む“ふつう”の美を追求しました。それはポストモダンの反動としてのミニマリズム、そして機能性の再評価を体現する姿勢でもあります。 コンスタンティン・グルチッチは、工業デザインの領域で革新的なアプローチを展開しながら、ミニマリズムと実験性を融合させた家具を生み出しています。無骨でありながら理知的な造形、技術と感性のあいだを往還するような作品群は、現代デザインにおける新たな均衡を示しています。 ロナン・ブルレックは、新しい素材や製造技術を探求しつつ、現代の生活様式に即した革新的なデザインを提案し続けています。同時に、ドローイングや絵画などの自由な表現活動を通して、デザインの背後にある詩的な感性を可視化しています。

スカンジナビアン、ポストモダン、そして現代のデザイン家具。それぞれの背景を知って、異なるデザインを組み合わせることは、過去と現在、静と動、秩序と遊びを行き来する行為でもあります。私たちは、「HIKE」と姉妹店の「LICHT gallery」を通じて、落ち着きのある木の家具に、硬質な異素材や鮮やかな色のプロダクトを加えて、既存のスタイルに留まらない、暮らしの可能性を探求、提案をしています。そうした異なる要素を巧みにミックスすることで、素材や時代、思想の違いが響き合い、ひとつの調和へと結ばれるとき、そこにその人だけのオリジナリティある暮らしと自由さが宿っているのだと思います。


記事:谷山

FROM HIKE

JOURNAL ON 4th Nov 2025

異なるデザインをつなぐ視点