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BORGE MOGENSEN HISTORY



デンマークを代表するデザイナー、ボーエ・モーエンセン。第一線で活躍したのは、わずか30年ほど。それでも、彼が生み出した家具は、デンマーク国民のほとんどが一度は触れたことがあるといわれるほど、暮らしに深く根づいています。その理由は、どこにあるのでしょうか。モーエンセンの家具づくりを、その歩みとともにたどります。


モーエンセンは1914年、ユトランド半島北部の街オールボーに生まれました。1934年に家具職人の資格を取得し、コペンハーゲンの美術工芸学校、続いて王立美術アカデミーで恩師コーア・クリントに学びます。クリントから受け継いだのは、人の体や暮らしの道具を徹底して「測る」こと。そして長い時間をかけて磨かれてきた伝統的な家具の形を、現代に合わせて「再解釈(リ・デザイン)」する手法でした。


1942年、28歳でFDB(デンマーク生活協同組合連合会)の家具部門の責任者に就任。戦中、戦後の物資不足のなか、多くの人が無理なく購入でき、長く使い続けられる丈夫な家具を生み出し、広く普及させるという役割を担いました。そこで生まれたひとつが、1947年に発表されたダイニングチェアJ39。手本としたのは、恩師クリントが1936年に教会のためにデザインした「チャーチチェア(現在のクリントチェア)」で、18世紀にイギリスからアメリカへ渡ったキリスト教の一派、シェーカー教徒の家具に影響を受けた椅子でした。彼らは余分な装飾を排し、必要な機能と丈夫さを追求しました。そうして生まれる簡素で合理的な形にこそ、美しさがあると考えていたのです。モーエンセンはチャーチチェアから、4本あった背もたれの横板を1枚に減らし、カーブした後ろ脚をまっすぐにすることで製作の手間とコストを抑え、木と紙紐(ペーパーコード)という身近な素材で、より軽やかで現代的な姿にまとめました。こうした工夫が実を結び、J39は広く家庭に行き渡っていきます。デンマークでは「フォルケストーレン(民衆の椅子)」と呼ばれて親しまれ、製造元を変えながらも、誕生から75年以上たった今もつくり続けられています。シェーカーから師へ、師から弟子へと受け継がれ、リ・デザインを体現したこの椅子は、モーエンセンの代表作といってよいでしょう。


一般家庭のための家具づくりは、椅子だけにとどまりません。それまでの収納家具は、全体の大きさや見た目のバランスが最優先され、いざ使うと収まりが悪い。そのような家具も少なくなかったようです 。モーエンセンは、食器や洋服の寸法を一つひとつ測り、中身から逆算して棚の高さや引出しの深さを決めていきます。外側からではなく、内側から考える。ここまで突き詰めたデザイナーは、当時まだ多くはありませんでした。1950年代には、建築家グレーテ・メイヤーとともに、この発想をもとにした組み合わせ式の収納家具「Boligens Byggeskabe(ボリーゲンス・ビッゲスカーベ)」を発表します。平均的な家庭の持ち物を想定し、引出しの一段、棚の一枚まで間隔を計算したもの。さらに当時の住宅の寸法も調べて箱の規格を統一したことで、横に並べても上に積んでもぴったり揃い、造り付けの収納のように組むことができます。現代のシステム収納に通じる仕組みを、モーエンセンは60年以上も前に実現していたのです。


1950年、36歳で独立したモーエンセンは、その後アンドレアス・グラバーセンと出会い、1955年にグラバーセンがフレデリシア社を買収すると、二人の協働は本格化します。経営者とデザイナーという異なる立場から、時に意見をぶつけ合うこともありましたが、丈夫で美しく、長く使える家具をつくりたいという思いは共通していました。そうした二人の関係から、数々の名作が生まれました。なかでもよく知られるのがスパニッシュチェアです。1958年、家族で訪れたスペイン・アンダルシアで目にした、彫刻の施された伝統的な椅子から着想を得ています。彼は華やかな装飾を潔く削ぎ落とし、幅広の肘掛けだけを残しました。その平らな面は、腕をゆったりと預けられるうえ、グラスや本を置くこともできます。馬の鞍にも使われるほど厚いレザーは、使い込んで伸びても、背面のベルトとバックルで張りを締め直せる構造。ゆるむことを最初から計算に入れ、長く座り心地を保てるようにしているのです。収納の研究と同じく、ここでも使う人の視点が貫かれています。


その姿勢は、自らの暮らしにも及びます。1958年、コペンハーゲン北郊のゲントフテに建てた自邸は「実験室」とも呼ばれ、試作品は家族全員で確かめられました。ソファの合格基準は、子どもたちが上で跳ねてもびくともしないこと。なんとも気取らない、それでいて実際の生活に即した試験方法でした。1962年には、この家のリビングのためにModel 2213ソファを設計しています。モーエンセン自身がこのソファにゆったりと横たわる写真には、どこか茶目っ気が漂います。その飾らない姿の奥には、家具に対する真摯な姿勢と、人々の暮らしに向けられた温かな眼差しが感じられます。人が身体を預け、心からくつろぎ、思い思いの時間を過ごすこと。その何気ない日常を大切にした、モーエンセンの生き方そのものが表れているように思います。


当時、コペンハーゲン家具職人組合展(Københavns Snedkerlaugs Møbeludstilling)では、職人の高度な技術や技巧を凝らした家具が注目を集めていました。しかし、モーエンセンが関心を寄せたのは、展覧会で人々の目を引く家具ではなく、日々の暮らしの中で使われる家具でした。そうして生まれたのは、使いやすさと丈夫さを大切にした、素朴で実直な椅子や棚でした。半世紀以上を経た今も、それらの家具は住空間に自然と馴染み、時代や暮らし方が変わっても愛され続けています。「人が家具に合わせるのではなく、家具が人に合わせる」。生前に目標として語ったこの言葉にこそ、モーエンセンのデザインが持つ普遍性の理由があるのでしょう。


ボーエ・モーエンセンの販売商品・過去のアーカイブはこちらからご覧いただけます。


記者:谷山
写真提供:Fredericia Furniture


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JOURNAL ON 5th NOV 2026

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