HIKE

今年の夏休みは、いつも以上に待ち遠しかった。北欧のヴィンテージ家具を修復する傍ら　 ”いつか本場の空気に触れてみたい”　という希望がようやく叶うからだ。初めての海外一人旅。一週間という短い期間ではあったがデンマークとスウェーデンの両国を巡って最も印象に残った場所をそれぞれ紹介していきたい。前編はデンマーク。

「コペンハーゲン空港」
到着早々に名作家具の洗礼を受けた。ポール・ケアホルムのPK22がさりげなく待合用で置かれ、SASのラウンジには、アルネ・ヤコブセンのソファやチェアが並ぶ。空港とは思えない程素晴らしい空間に感激しつつ北欧に来れた喜びで気持は高揚し、はじめての海外ということもあり必要以上に写真を撮りまくる。

「ルイジアナ現代美術館」
北欧に行くにあたりオススメの場所と聞いていた美術館は評判通り非常に素晴らしかった。質の高いコレクションをはじめ、ドイツの画家ダニエル・リヒターやマリメッコのデザインでも有名なポール・ゲーネスの作品などが展示されている。中でもルイジアナ最大の魅力である自然光や外の景色を取り込んだ空間で観たアルベルトジャコメッティの彫刻は素晴らしかった。他とは異彩を放つ存在感。極限まで人間の本質に迫った人物像からは独特な空気が漂う。広大な敷地内では、静寂に包まれた森や湖を散歩したり、オブジェが点在する芝生の庭園で自由気ままに過ごした。途中立ち寄ったセブンチェアがズラリと並んだオーシャンビューのカフェテラスも最高で、カフェから望めるオーレスン海峡とアレクサンダー・カルダーの巨大モビールは絶景で忘れられない場所となった。

ルイジアナ美術館の帰りには、日本人女性と出会った。聞けば、彼女はもう何度もデンマークを訪れているらしい。アルネ・ヤコブセンが大好きなようで、終始彼の話で大いに盛り上がった。海外で日本人と会話できることがこんなにも嬉しいものかと。というのも、出発前からカード限度額が既に超えている驚愕の事実を知り、案の定、成田空港ではWifiを借りることができず、スマホでマップ検索出来ないため路頭に迷うこと度々。しかも海外は日本以上にカード決済が進んでいて、宿泊先はカード支払いしか受付ないと。英語も話せない僕は数々のトラブルと対峙することになり少し疲れていたかもしれない。出会った彼女と日本語で話せたのは救いにもなった。

「テキサコ・サービスステーション」
ヤコブセンのデザインに出会えるベルビュービーチ、ベルビューシアター、集合住宅のベラヴィスタなど見所の多いエリアにあるのがスーホルテキサコ社のガソリンスタンドで、大きな円形の屋根は、彼がデザインした『アリンコチェア』を連想させる。まるで映画のワンシーンを切り取ったかのような景観は年代もののクラシック車で乗り付けたくなる格好良さ。辺りは潮風が心地良く、海辺で気持ちよさそうに泳いだり、ヨットやカヌーに乗って楽しむ人々を眺めながらゆったりと過ごした。

「ホテル・アレクサンドラ」
デンマークに来たら絶対にここと決めていた ホテルで、デンマークで宿泊したホテルの中で最も素晴らしかった。 北欧ヴィンテージ家具の宝庫と言ってもいい程、巨匠たちの名作家具や調度品でコーディネートされたホテル。フロントロビーにはフィン・ユール、ナナ・ディッツェル、オーレ・ヴァンシャー、ピーター・ヴィッツ、ボーエ・モーエンセンなどのチェアが出迎えてくれた。

自ずと部屋の設えにも期待が高まる。部屋にはモーエンセンのレザーソファーセット、ウェグナーのベッドが贅沢に置かれ、リ・クリントやルイスポ−ルセンの照明がセンス良くコーディネートされていた。期待以上で気持ちがより一層高まった。ヴィンテージ家具に囲まれているという興奮から寝るのが惜しく夜遅くまでこの贅沢な空間を堪能した。ただ、どうしても木部のちょっとしたキズを見つけると、サンディングをしたいと思ってしまった自分がいた。もう、リペアという仕事が体に染み付いてしまっている。改めて北欧ビンテージ家具のリペアが好きなのだと再確認できた場所でもある。

「コペンハーゲン市内」
コペンハーゲンの街は、近年食ブームに沸く街としても注目されお洒落なカフェレストランで賑わう。皆シンプルな装いで自然体な感じが格好いい。中世の石造りとカラフルな木造建築が立ち並び、人と自転車が主役のクリーンな街づくり。デンマークは、伝統とモダンが程よい距離感で共存している。何処をとっても洗練されたスタイルは、自然と寄り添って暮らす中でナチュラルさを追求してきた証だろう。本当に居心地が良すぎてこの場を去るのが惜しかった。近いうちに必ずまた訪ねることになりそうだ。

北欧旅行記、後編はスウェーデンへ続く。

ルイジアナ現代美術館

アレクサンドラ

文＆写真：宮下（アトリエ責任者)