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JOURNAL / FROM HIKE / なぜ北欧家具はヴィンテージになれたのか 第一章



北欧家具はインテリアにおけるひとつのジャンルとして定着しました。古くから世界中に調度品が存在する中で1940〜60年代の北欧家具は黄金期と評され特にその価値を認められています。それはなぜか。デンマークの歴史や社会的背景を見ていくとその答えに近づくことができるでしょう。現代では世界情勢が影響して家具の価値が高まる傾向にあるからこそ、私たちは家具を道具として所有するだけでなく、意義を抱くことで長く愛せる家具との関係性を構築できるように思います。


北欧家具の歴史

今から1000年以上前のことです。北欧には多くのヴァイキングが存在し、航海に出て欧州各国と入植や交易活動を行っていました。ヴァイキング=海賊は現代では略奪行為が目立つ印象がありますが、それは一側面にすぎません。こうした活動の過程で、訪れた地から家具などの調度品を自国に持ち帰ったり、その場に留まり造船技術を活かして家具の製造方法を学んだとも推察でき、北欧が誇るクラフトマンシップの出発点と考えられています。

時は進み、ヨーロッパ文化の中心だったルネサンス様式、バロック様式などの装飾の美しい建築が北欧に伝わり流行します。その頃のデンマークには家具職人組合(キャビネットメーカーズギルド)が存在し、家具職人らは貴族に向けて新しい様式を真似た装飾的な家具を製作したり、庶民に素朴な家具も作っていました。家具職人組合の特筆すべき点はマイスター制度を設けたことです。技術をもった職人が師匠となって若い見習いに技術を教え、ビジネスに必要な材料の買付、帳簿の付け方、工房の経営などの教育は組合が行う仕組み。こうして、ヨーロッパ各国からの影響を受けながら技術の継承がなされていく家具作りの土壌が育まれていきます。


黄金期の誕生

20世紀に入り、隣国ドイツでは総合芸術学校バウハウスを中心としたモダニズムが注目を集めます。合理主義、機能主義による無駄な装飾を排した意匠に、金属パーツを用いた構成は大量生産に適しており現代に残る名作が多く誕生しました。当時、第一次世界大戦の影響でドイツのマルクが価値を下げ、デンマークのクローネが高騰したことも相まってドイツから家具が多く輸入されると、モダニズムの流れはデンマークに波及。ですが、彼らには古くから培ったクラフトマンシップというプライドがありますから、木材とその加工技術は大切にしながらモダニズムを独自に解釈していくことになります。

1924年、デンマーク王立芸術アカデミーが設立され家具科の講師として建築家であり家具デザイナーであるコーア・クリント (イメージ画像右) が教壇に立ちます。北欧のモダニズムは彼によって構築されたといっても過言ではないでしょう。最も重要な教えのひとつに「リ・デザイン」があります。伝統を排除せずにそれらを元に現代の暮らしに合わせた改善を図るというデザイン論法。過去の模倣や安易にモダニズム的な解釈を当てはめるのではなく、その本質を探り研究、調査、分析する考えです。バウハウスは古典とは逆行した新しい思想ですが、デンマーク家具デザインは歴史の上に立っている点で、世界に確固たるオリジナリティを示せたと言えるでしょう。


あとがき

本章では黄金期に至るまでの礎がどのように築かれたのか記述しました。コーア・クリントは「人間工学」というもう一つ大切な教えを残しており、「リ・デザイン」と併せてそれらを受け継ぐ世代が現れます。そして、世界情勢を好機と捉えたキャビネットメーカーズギルドの取り組みなど、黄金期についての話はまだ続きます。そして、その後に訪れる衰退と復活を果たした現代に至るまでのストーリーを回を分けて綴って参ります。

FROM HIKE

JOURNAL ON 12th Sep 2024

なぜ北欧家具はヴィンテージになれたのか 第一章