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JOURNAL / FROM HIKE / なぜ北欧家具はヴィンテージになれたのか 第二章



前章では人々が繁栄を求めて学び得た他国の文化を知識に変えて、それを脈々と受け継いで独自に昇華させていく、そんな北欧家具の礎を築くまでの過程を綴りました。本章はいよいよ隆盛を極めた黄金期(1940〜1960年代)についての話です。世界情勢がもたらす影響、新世代デザイナーの活躍など、色々なファクターが束となり太い矢を形成したように力強く解き放たれます。


デンマークに訪れる好機

1918年に幕を閉じた第一次世界大戦で中立を固辞したデンマークですが、隣国ドイツの通貨マルクが急落した影響でクローネ(デンマーク通貨)が高騰します。高価だったマホガニーなどの木材が輸入しやすくなり、家具業界に追い風が吹いてきました。そこで動くのが家具職人組合(キャビネットメーカーズギルド)。長年育ててきた職人らの確かな技術と良質な木材が合わさり製作された家具を発表する場として展示会を催すのです(画像左上)。紆余曲折ありながらも40年以上続き、その間に優れたデザイナーと工房・職人らによる名作を数多く発表。例えば、フィン・ユール(デザイナー)とニールス・ヴォッダー(職人)、ハンス・ウェグナー(デザイナー)とヨハネス・ハンセン(職人・工房)のように現代でも語り継がれるスターコンビによってデンマーク国内の中流階級以上の人々や、無機質な工業製品に溢れたアメリカなどで好評を博します。


人の暮らしと家具

1945年、仕事を求めてデンマーク都市部への移住者が増加していきます。当時の家具は大きく機能的ではなかったので、住宅不足と相まって人々の住環境は悪化していました。六畳一間ほどの広さにファミリーで暮らすこともあったそうで厳しい状況であったことは容易に想像できます。

コーア・クリントは人体、および暮らしと家具との相関関係(画像右上)を研究したことでも知られています。例えば収納家具の場合、家庭にあるシャツや下着などの衣類、寝具、食器などの平均的なサイズと量を徹底的に調査し、それらを納めるのに効率的な高さと奥行、そして家具自体が使いやすい高さであることも考慮して設計するという考えです。さらにはモジュールという同サイズの様々な家具ユニットを用途に合わせ、組み合わせて購入できるデザイン手法も考案しており、これらは北欧家具の黄金期を形成する上で大きな要因であったと言えるでしょう。モダニズム建築の巨匠ル・コルビジェもモデュロールという造語を用いて同様の考えを提唱していますが、クリントの方が20年以上も先とされています。


FDBモブラー

日本においてデンマークの家具デザイナーと言えば、と尋ねれば多くはハンス・ウェグナーと答えるでしょう。ですが、デンマークで同じ問いをすれば結果はボーエ・モーエンセン(画像下)。デンマーク王立芸術アカデミーでクリントの元で学んだモーエンセンはデザイン手法をしっかりと引き継いで自国の暮らしを豊かにしたヒーローなのです。19世紀末に設立されたFDB(デンマーク生活協同組合連合会)は1940年代には2000店舗ほどの規模があり国民の多くが利用していました。食料品や生活雑貨に加えて1900年代初頭からは家具も取り扱いますが、1930年代までは前時代的な家具。そこで、新たにモダンで実用的かつ低価格な家具の開発を目標に掲げ、1942年にキャビネットメーカーズギルド展で評価を得ていたボーエ・モーエンセンが家具部門の責任者に迎えられるのです。

モーエンセンは若い頃にアメリカの自動車会社フォードの工場見学で感銘を受けました。そこでは流れ作業による効率的な量産体制が確立されており、1つの家具を1人の職人がじっくりと作り上げていく自国の家具づくりとは大きなギャップを感じました。クラフトマンシップに対するプライドがデンマークのアイデンティティですが、一般市民には職人がハンドメイドで製作した家具は高価だった為、このフォードの仕組みをFDBに応用していきます。リ・デザインにより北欧らしい優れた意匠性を確保しつつ、ひとつひとつの部材はモダンでシンプルな家具を設計していきます。工場では部材ごとに役割があり、複数人が連携して1つの家具を仕上げていくのです。効率化はコスト減につながる他、職人の技量によるムラがなくなりクオリティは平均化されることや高い技量を有していなくとも家具づくりに参加できるため雇用を創出できることなど、当時のデンマークに求められていた需要を見事に反映した家具づくりだと言えるでしょう。


あとがき

本章ではゴールデンエイジと称されるトップデザイナーの個の才能ではなく、その時代を俯瞰してみた大きな流れを捉えています。20世紀に起きた2つの大きな戦争を経てもなお途絶えることなく北欧家具を発展させた人々の熱量には不屈の精神を感じることでしょう。ですが、この後に衰退期が訪れます。ご存じの通り、現代のデンマークはデザイン大国として復活を果たしていますが、何があったのでしょうか。次回、終章では現代に至るまでの過程を綴ります。

FROM HIKE

JOURNAL ON 1st Nov 2024

なぜ北欧家具はヴィンテージになれたのか 第二章