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JOURNAL / FROM HIKE / ABOUT ALVAR AALTO STUDIO



フィンランドを代表する建築家アルヴァ・アアルト。通貨がユーロに変わるまでの50マルカ紙幣には彼の肖像画が印刷されたほど国民的な英雄として親しまれている。代表作にはパイミオのサナトリウム(病院)やマイレア邸など、多数の公共施設や個人邸を手掛けてきた。中でも私たちにとって印象的なのは家具ブランド「アルテック」であろう。

建築家でありつつ、優れたプロダクトデザイナーでもある彼は“アアルトレッグ”と呼ばれる独自の曲木技術を考案し、それを用いたテーブルやスツールを発表。家具以外ではランプやフラワーベースなどもラインナップされており、様々なインテリアシーンでアルテックの存在感は強い。今では世界的なメーカーとして各国で認知されている。

今回はそんなアルヴァ・アアルトの内に迫るべく、フィンランド・ムンキニエミにある彼のアトリエに訪れたときの話をしようと思う。ヘルシンキ中心地からトラム(路面電車)でおよそ20分ほど。夏に訪れたこともあり、中心地では貴重な太陽を浴びようと多くの人を見かけたが、トラムを降りるとそこは緑豊かな公園と閑静な住宅街。私の想像通りのフィンランドがそこにあった。

アアルトは1933年、自宅兼アトリエとしてここムンキニエミに移る。設計は当時のパートナーであるアイノと共に手掛けたそう。その後プロジェクトやスタッフが増えてきたことで手狭になったのだろう、1955年に自宅から歩いて10分程のところに新たなアトリエを建築。住宅街にひっそりと佇み、辺りの公園や庭の木々ともうまく馴染んでいて、坂道と同調するような斜めの大きな屋根が印象的だったのをよく覚えている。白くてシンプルな2階建ての建物。少し緊張して行ったのだが、スッと穏やかな気持ちに整えられるような感覚があった。

中に入り、2階へ上がるとまず製図室が現れる。自然光がさんさんと注ぎ込むクリーンな空間で、先ほどの斜め屋根が空に向かって伸びていて、上手く光を取り込み白い天井や壁が拡散。窓の外にある豊かな自然とあいまって、蓋を閉じるような屋根ではなく、素晴らしい開放感を感じる。だから、一般的なオフィスにどうしても存在する閉塞感というものが、ここには微塵も感じられない。

奥に進むとさらに開放的なスペースが現れた。家具やランプなどアアルトの作品が沢山そこには存在し、ギャラリーとも言える設えとなっている。中庭を囲う様にカーブした窓と、高い位置にも大きな窓。それら2つの窓によって、切り取られた外の景色ではなく、まるで庭の延長線上にこの空間があるように思えた。

並べられたアアルトの作品もそう、どれも有機的なフォルムやディテールが取り入れられている。自然界からのインスピレーションをカタチにするアーティストとしての一面が垣間見えたようだった。空間を設計するにあたり、ただ人が暮らすことだけを考えるならば、自ずと四角い箱になるだろう。だが、斜めの屋根や自然豊かな庭、そして曲線を取り入れた窓などからは、アアルトが考える豊かさが表現されているように思えてならない。

秀逸なのは一人よがりな想いに傾倒する事なく、使う人のことを大切に考えていること。第一印象として感じた心の落ち着きが何よりもそれを表しており、生活動線のことや、お手入れについてもよく気にしていたと聞く。こういった配慮は建築家、デザイナーとしての非凡さが伺えるところ。

普段、家具を通してアアルトを認識していたが、建築という大きなスケールで彼を感じたことでより家具の理解も深まったように思う。自宅以上に長い時間を過ごしたであろうアトリエは、自然への愛と、穏やかな気持ちを保つ光が満ち溢れていた。


アルヴァ・アアルト作品のご紹介

Table
Stool
Bench
Pendant Lamp Beehive
Pendant Lamp Golden Bell
Flower Vase Savoy
Plants Pot
Umbrella Stand


記者:中島


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FROM HIKE

JOURNAL ON 18 APRIL 2020

ABOUT ALVAR AALTO HISTORY