HIKE

60年代デンマークのキャビネット。北欧家具の黄金期である50~60年代には著名デザイナーによる作品が多く生み出された一方、技術を競い合った職人たちによる隠れた名品も数多く残る。また、工具の精度向上に伴いチーク材の加工技術に大きな変化が見られた時期でもあり、こちらのキャビネットにも高度な職人技が随所に見られる。

まず目を引くのは、個性的な木目を左右対称に配した開戸。中央の鍵穴に鍵を刺すことで取っ手の役割も果たし、限りなく無駄のない前面の意匠を実現している。要素が少ない本作が無骨に感じないのは、戸の四隅が丸く仕上げられていること、本体の四辺に施された溝によって陰影が生まれるからだろう。まるで絵画のようにフレームに扉が納まるデザインは珍しく、シンプルながら細やかな配慮が美しい佇まいに繋がっている。

内部は左側に5杯のトレー、右側に可動棚が2枚の構成。素材はビーチを使用し、外側のチークの色味とのコントラストが美しい。トレーは適度に間隔が空いている上レールが多く、好きな位置にアレンジできる。そのため、食器を重ねて収納するなど高さの融通が利き、右の可動棚と合わせて、様々な日用品を1台に集約可能。

また、脚部にも職人のこだわりが込められていることを忘れてはならない。ほとんどのキャビネットは収納部に直接脚が接合しているが、本作は幕板のみが収納部に繋がり、脚との間には空間が設けられている。おかげで存在感のあるキャビネットながら軽やかな優美さが保たれており、四方に幕板を回すことで安定性をも確保しているのは素晴らしい。

60年代のデンマークを生きた職人の想いが息づくキャビネットは、日常の道具を整理してくれるだけでなく、生活に対する姿勢について大切な何かを語りかけてくるようだ。

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コメント： 田中

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